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辺りが暗くなる頃になると、向かい岸の和倉温泉から、太鼓の響きが微かに流れてくる。

御陣乗太鼓である。

温泉街の御祭り広場で、観光客相手に披露されているのだろう。

御陣乗太鼓の発祥の地である石川県輪島市名舟町は、現在、世帯数約70戸、人口約250人の小さな町で、現在打ち手は20名と聞く。

1576越後の上杉謙信は、能登の名城であった七尾城を攻略して、その余勢をかって奥能登平定に駒を進め、破竹の勢いで名舟村へも押し寄せてきた。

武器らしいものがない村人達は、鍬や鎌まで持ち出して上杉勢を迎撃する準備を進めたが、あまりにも無力であることは明白であった。

しかし郷土防衛の一念に燃え立った村人達は、村の知恵者といわれる古老の指図に従い、樹の皮で仮面を作り、海藻を頭髪とし、太鼓を打ち鳴らしながら寝静まる上杉勢に夜襲をかけた。

上杉勢は思いもよらぬ陣太鼓と奇怪きわまる怪物の夜襲に驚愕し、戦わずして退散したと伝えられている。